---------  売りぬく!


売りぬく!・・・・この言葉は、元々は株取引の用語でしょうか?旬で高いうちに高い株を「売りぬいて」利益を出す・・・という意味に用いられています。
この言葉は、「分譲マンションを、竣工後、短期間で売りぬく!」というように不動産業界でも使われています。
かつて、不動産ディベロッパーと仕事をしたことがありますが、綿密な市場調査をした上で、現在の市場動向にあわせた不動産(マンション)を企画し、市場のニーズが変わらないうちにそれらの物件を「売りぬいて」しまうことが、彼らの命題でした。その為に、アンケートや色々なアンテナを張り巡らせて、マーケットリサーチをしていました。マーケットのニーズは猫の目ですから、猫の目が変わらないうちに商品(マンション)を「売り抜いて」現金化することが関心事で、彼らは、その後の街の盛衰には関心がありません。
それを防ぐ為に、私が在籍していた曽根さんの事務所が、幕張の住宅地の計画に携わった当時、長く育てられる街をつくる為に、一つの策を練りました。分譲マンションのディベロッパーに対して「一定割合の賃貸マンションをノルマとして課す」と言う条件です。建設する全てのマンションを、ある一時期の市場動向にあわせて「売りぬかれた」のでは、ディベロッパーの街に対する責任はそこで終わりです。しかし、ディベロッパーにある程度の賃貸マンション運営のノルマを課せば、将来に渡る街の魅力が、賃貸マンションの稼働率や値付けに反映しますから、ディベロッパーも街に対する責任を負わざるを得ません。


現在、松本市では「景観」や「街並み」の観点で、不動産ディベロッパーの良心に訴え、街の高層化を防ぎ、将来に渡る松本市の景観を保全していこうと、色々な市民団体や松本市の委員会が活動しています。しかし、街の景観は、ディベロッパーの「売りぬく!」価値観とは相容れないものですから、そこにどんな正論をぶつけても、話は平行線をたどります。そこには、土地に対する許容建築容積率に絡む財産権の問題がありますから、最終的にはディベロッパーの主張が容認されます。

それに対抗するには、景観を景観として話すべきではなく、長いスパンでの経済行為として話すべきで、ディベロッパーを、街を形作る一事業者として繋ぎとめる仕組みが必要だと思います。その上で、将来の街の魅力を形作るためには何が必要か?どんな節度を持つべきか?を運命共同体の一員として話していけば、別の方向性が見えてくるかもしれません。
パリの街が何故「花の都パリ」でいられるか・・・・・?それは、殆どの不動産が賃貸で、不動産オーナーが自らの不動産価値を保つために、街の景観・節度をわが身の事として真剣に考えているからです。街の魅力がなくなること、即ち自分の賃貸している不動産の価値がなくなることですから、ディベロッパーが率先して街の魅力を考え、これが、パリを魅力ある街にしています。逆説的ですが、パリの不動産オーナー・ディベロッパの関心は、自らの不動産の価値を保つことにあり、その結果として良質な景観が保たれています。現実としての経済の視点が無ければ、「まちづくり」はナンセンスです。

今現在の、マンションディベロッパーが不動産を「売りぬく!」という態度でいる限り、市民団体がどんなに正論をかざして戦おうが徒労に終わるでしょう。ディベロッパーを、街の一構成員として取り込み、「まちづくり」をわが身の事・・・・と、彼らの考えを変えない限りは、何も変わらないでしょう。高さ制限などで、規制をかける事も一つの方法ですが、もっと根本的な問題として「売りぬく!」態度を許さない、不動産供給・不動産開発に対する枠組みが必要です。