------------  料理と建築


先日『信州の建築家とつくる家』をご覧になった方から御相談を受けました。何でもレストランを計画中で、作品の好印象もさることながら、プロフィール欄に「趣味:料理」と書いてあるのが目に留まったようです。


この頃「スローフード」という言葉を耳にしますが、ほんの30年前までは、多くの家が季節の旬のものを家庭で調理した、いわゆるスローフードが毎日の食卓でした。私の育った家も両親と食べ盛りの子供4人分のおかずが大皿に盛られ皆で食卓を囲みました。そのうち子供たちもごく自然に料理を手伝うようになり、料理は趣味というよりも、我が家では生活の一部として当たり前の必須科目でした。気がついたら私の弟はクィーンアリスの山田シェフです。


弟との会話で、料理と建築に共通点が多いことが話題になりました。
料理も建築も生活の一部ですが気の遣い方次第で、不愉快にもなりますし、心地よい料理や建築は芸術の域に達するものもあります。
料理も建築も創る人の個性もありますが、食べたり住んだりする人がいて、その相手に喜んでいただけることが大前提になります。
建築は、周囲の環境、時代の雰囲気、空間の組み立て、素材や仕上げの取り合わせ、工法や表現の選択、等を基に建築を形づくっていきます。料理も同じく、食事のシュチュエーション、メニュー全体の組み立て、素材と素材の組み合わせ、調理の手法、全てに頭をめぐらし技をふるいます。
料理では、丁寧な下ごしらえも大切ですが、火加減や塩梅の一瞬の判断や勘が料理を決めます。建築でも、緻密な設計図の検討と同時に、建設現場でのひらめきや判断が建物の出来を左右します。
修行も両者とも体や経験で覚えることが多く、良いアトリエ・良いマイスターに就くのが一番の近道です。
そんな共通点が多いせいでしょうか、建築家には、料理が好きな人が多くいます。何より、若いときは薄給(料理の世界も若いときは薄給と聞きますが、建築設計も相当なものです)なので、自分で料理が出来ないと生活できません。ある建築家は若いとき、ニワトリ一羽を色々に調理して一週間食べて暮らしたとか・・・・。


しかし、唯一、最大の相違点は、料理は「そのとき」が全てですが、建築は長く残ります。
弟は、それが羨ましいと言っていましたが、残るのがうれしい反面、幾つも設計した中には前を通る時に頭を掻いて隠れたくなる時もあります。