建築の「レイヤー」、ファッションの「レイヤード ルック」

同じ題のブログが、私が教えている「松本衣デザイン学校」の校長ブログにあります。
デザイン画の授業の中で「レイヤー、トランスペアレントをテーマにした衣服を選んで、デザイン画を描く」という課題を出したのですが・・・講評会で、私の持っている「レイヤー」の概念と、衣服の世界での「レイヤード ルック」のニュアンスの違いに気付きました。「レイヤード ルック」の解説は、校長のブログをご覧ください。
建築で「レイヤー」というと、格子であったり、透かしであったり、あるいは街路樹や風景との重ね合わせであったり、色々な要素を重ね合わせて、重ね合わせの中に空間をつくるデザイン手法をイメージします。ヨーロッパで彫塑的な「フォルム」を主眼に建築物を構築してきた歴史に対して、モダンデザイン以降の建築デザインに、アジアやアラブの透かしや重ね合わせの概念が多くの影響を与えています。

レイヤー、トランスペアレントは、まさに日本のお家芸です。格子や障子の建築のモチーフはもとより、平安時代十二単や、衣冠束帯の重ねの色目。

西洋の透視図遠近法に対して、プレーンな遠景・中景・近景を重ね合わせて空間の奥行きを表現した「富嶽三十六景」など、あらゆる日本文化に「レイヤー」の概念が用いられています。

かつては、西欧美学に基づき、透視図的なダイナミズムやフォルムをデザインの王道としてきた建築や衣服の分野でも、現代では「レイヤー」や「トランスペアレント」の概念を欠く事ができないのも、社会の動きと無縁ではありません。
情報が限られた中では、神や王や権力を絶対的な存在とした単視点からの透視図的(パースペクティブ)なアプローチで、事象を捉える事ができましたが、インターネット社会に代表される様に、思想や情報が多極・多様化した中では、単視点なパースペクティブからは現代の事象を理解することは出来ません。様々な思想や情報を重ね合わせる中でしか、全体像を描きだす事はできません。

神や玉座の視点からの「パースペクティブ」や、神の造形物としての「フォルム」を最重要視してきた西欧デザインの歴史に対して、デザインの周縁地域と言われてきたアジアやアラブのデザイナーが、「レイヤー」の概念や文化を背景に現代デザインに活躍しているのも、時代の必然として感じます。

・・・と言いながらも
骨があって肉がついて人体が構築されていて・・・と言って「解剖学=西欧美学の王道」から、ファッションデザイン画を教えざるを得ないのは、服が体から離れられない限り、仕方ないでしょうか?・・・それもイロハのイですから。難しい事を考えるのは、その後で・・・