大転換

今朝の新聞の一面にこんな記事が出ていました。「低層公共施設を木造に」・・・公共建築物木材利用促進法。

政府が、高さ13m以下・軒高9m以下・述べ床面積3000平方メートル以下・2階建て以下の公共建築物は、原則全て木造とする・・・という基本方針をまとめたそうです。建築・建設界を揺るがす大転換です!

コンサートホールや体育館の一部を除くと、市町村の庁舎から始まって、図書館・学校・幼稚園・公民館・集会所など公共建築の殆どが、この規模と言っても過言ではありません。それらを、原則全て木造にする・・・とは、建築に多大な影響を与える大きな方針転換です。私も、不勉強でしたが、この法律が数カ月前に成立していたのは知りませんでしたし、政府の方針は、つい先ごろまとめられたばかりだそうです。

私の通っていた小学校は、40年前、当時最先端の鉄筋コンクリート校舎で、全国から色々な団体の方が視察に来ていたのを、子供ながらに覚えています。低学年棟は平屋で高学年棟は3階建ての鉄筋コンクリートでした。床のPタイルがツルツル滑って、冷たかったのを思い出します。一方、中学校は2階建ての木造校舎で、硬く絞った雑巾で、毎日、木の床を磨きあげていました。壁も腰壁が板張りで、教室にはダルマストーブ。体育館も、木造トラスの古い体育館でした。今でも、温かい思い出として記憶に残っているのは、中学校の木造校舎です。
環境・資源・コストパフォーマンス・教育・・・色々な面から考えても、社会の方向性は、木造建築を見直す方向に向かっていますし、それ自体は間違っていません。
しかし、今まで公共建築が木造を疎んじてきたツケは大きく、各自治体の建築担当者・デザイン・設計・工事管理・職人・・・あらゆる局面で、木造に精通した技術者の不足が大問題になるでしょう。

例えば、一級建築士の試験には、学科も実技試験も、木造に関する設問は殆どありませんし、大手ゼネコン・地方ゼネコンの現場監督で木造に精通している現場監督は皆無、と言うのが現状です。今まで、公共工事は、鉄筋コンクリート造か鉄骨造でしたし、ゼネコンが扱う民間の建築にも木造建築は稀でしたから無理もありません。自治体の建築技術者もしかり、設計事務所の技術者も全く同じ状況です。
住宅の設計や工事に携わる人には、木造に熱心に取り組む人も大勢いますが、一戸建ての住宅に関わる人が殆どで、900坪の公共施設をトータルで考える経験を積んだ人はごく僅かです。

この方針をまとめた政府関係者は、建築生産現場での、このような状況を理解しているでしょうか?恐らくは、全くイメージしていないでしょう。降ってわいた様な、大きな政策の方針転換が、建築・建設界に大混乱を起こすのは必至です。

そんな中にあって・・・木造住宅にも、ある程度の規模の建築にも、色々と取り組みながら、建設業界の「隙間」に居た我々に、この転機に何かできることがあるかもしれないと思っています。