----------  何故、駅前にこだわるか?


新聞やテレビでも報道されているので、ご存じの方も多いかと思いますが、松本駅お城口(東口)広場をつくりかえる計画が佳境を迎えています。私も、このところ、松本市景観審議会の委員として駅前のデザインを検討したり、建築士会の社会貢献委員長として、松本駅前のデザインについての勉強会・シンポジウムの企画に奔走したりで、新しくつくられる松本駅前のデザインに関わっています。18日のシンポジウムには、100名あまりの多くの方に集まって頂きました。少なからず関心が高まりつつあるのを感じています。
昨日の景観審議会では、審議会に松本駅前のデザインに関する専門部会を設置する事が決まりました。
今までの勉強会・シンポジウムの企画に加えて、これから具体的な駅前のデザインの再検討という、新しいステージに入りますが、その前に、私が、何故、駅前にこだわるのかを考え直してみました。


ひとつには、多少の甘酸っぱい感情。
私は松本市で生まれ育ち、大学・仕事と15年間を東京で過ごし、郷里の松本に戻って建築設計事務所を始めました。家を離れて一人で生活する為に旅立ったのは松本駅で、郷里を離れる寂しさとこれからの生活に対する希望を胸に駅から旅立ちました。帰省する際、お土産をぶら下げて帰る私を家族が出迎えてくれたのも駅です。北アルプスに登る為に、新宿発の夜行列車にゆられ、上高地線に乗り換えたのも松本駅。結婚式を終えて新婚旅行に出かけたのも・・・私の生活・人生の節目の色々な思い出が詰まっています。
6月の景観審議会で、駅前をつくりかえる素案を始めて目にした時、現在の駅と同じように、駅前に降りたった時に、タクシーの行列を目にしなければならない景観にがっかりしました。合わせて、景観のシンボルとして、松本城の石垣を模した時計台が広場の中央に計画されていました。しかし、私が感じる松本らしさは違います。駅を降りると肌にまとわりつくような東京の熱い空気と違って、からっと乾いたさわやかな空気と抜けるような空がひろがります。それが、私の松本駅です。
私の甘酸っぱい思い出が沢山詰まった舞台が、もっと素敵な場所であって欲しいと思ったのが、駅前のデザインに関わってみようと思った動機です。その後、シンポジウムの企画等で色々な方とお会いしてきましたが、お会いする皆さんが一様に駅前に特別な感情を持っているのが印象的です。皆、自分の甘酸っぱい感情を重ね合わせているのではないでしょうか。



もうひとつはプロフェッション。
私が、大学・東京での就業時代に松本を離れていた間に、松本の街は大きく変わりました。特に、松本に帰って独立したばかりに最終段階を迎えていた「中央西区画整理事業」で、中心市街地は城下町の入り組んだ街路を失い、色々な風景・景観が失われてしまいました。
東京で働いていた曽根幸一さんの事務所では、建築の設計と合わせて、都市デザインの仕事も多く、大学時代には都市デザインの門外漢であった私も、門前の小僧が習わぬ経を覚えるように、都市デザインに対する視点や、ネットワークを持つようになりました。
今までの松本市の都市デザインの移り変わりには、能力も経験も立場もなかった私は、指をくわえて見ているしかありませんでしたが、今では、多少の都市デザインの専門的知識を身につけ、更に高い見識を持った方たちとのネットワークも持ち、行政の方とも色々なお話をさせて頂けるようにもなり、駅前の景観やデザインについてどうにかできる(かもしれない)見識と経験を積んできました。
今まで、松本駅前の素案をまとめてくる中で関わった方もそれぞれ大変な努力をして、ここまでの案をまとめて下さいました。色々な条件を整理し、少しでも良い駅前にしようと皆さんで考えてきた事と、その成果は大切です。しかし、私がそこに関わることで、もっと素敵な駅前にすることが出来るかもしれない・・・と生意気ながらも自分のプロフェッションを感じています。

プロフェッション・・・・色々な定義がありますが、法社会学者の石村善助氏が著書「現代のプロフェッション」に著した定義が、代表的な定義のひとつとして多くのブログで引用されています。
「プロフェッションとは、学識(科学または高度の知識)に裏付けられ、それ自身一定の基礎理論を持った特殊な技能を、特殊な教育または訓練によって修得し、それに基づいて、不特定多数の市民の中から任意に呈示された個々の依頼者の具体的要求に応じて、具体的奉仕活動を行い、よって社会全体の利益のために尽くす職業である。」

行政サイドでは、一応の手続きを踏みながら作成した素案に、違和感を示す我々を、排除することもできます。しかし、市役所の方々も「少しでも素敵な駅になれば」の一心で、我々の声にも耳を傾けて下さいます。関わる以上は、生半可で失礼な関わり方でなく、自分の持てる力を精いっぱい注ごうと思います。