--------も〜いいかい まあだだよ


松本市美術館で、建築家・富田玲子さんの講演を聞きました。
居心地良い「くらしの場」を創りたい・・・・・と題した1時間半ほどの講演で、富田さんが設計した建物の写真を紹介しながら、感覚に響く心地よい「くらしの場」を解説して下さいました。

テーマを12に分け、
ぎゅうぎゅう・ぴったり・ぬくぬく・すっぽり・こっそり・・・という言葉で「身体感覚・寸法感覚」
ぺったんぺったん・ひたひた・どろどろ・ふわふわ・ぬるぬる・ざらざら・とげとげ・・・という言葉で「皮膚感覚」
というように、其々のテーマに応じながら、それを連想させるやさしい言葉で解説するユニークな講演でした。
もっこり・もこもこ・にょきにょき・もくもく・・・という言葉で解説した「空間の質」のテーマでは、谷川俊太郎の絵本も交えながら話し、柔らかなイメージが拡がりました。

特に印象深かったのが・・・・だあるまさんがころんだ・も〜いいかい まあだだよ・・・という言葉を使った「半屋外空間」の解説でした。


何故、・・・だあるまさんがころんだ・も〜いいかい まあだだよ・・・が半屋外空間なんでしょう?
屋内でも、屋外でもないあいまいな空間の中で、遊んだり、隠れたり、想像力を広げて過ごす場所です・・・・と何枚ものスライドを見せて下さいました。
私も、半屋外空間が大好きで、建築を設計する際には、屋内と屋外を繋ぐ半屋外空間を必ず取り入れています。

半屋外・・・屋内でも屋外でもないあいまいな場所です。一方、日本の隠れんぼの、「も〜いいかい まあだだよ」もなんとあいまいな遊びでしょう。

欧米だったら「100数えるまでに隠れなさい、その後は、鬼が皆を探します」と言うルールで遊ぶのではないでしょうか。ここまでは、隠れる時間、ここからは探す時間と白黒ハッキリつける態度は「ここまでは室内、ここからは屋外」という空間の分節と同じです。
しかし、日本の隠れんぼでは、鬼が「も〜いいかい」と訪ね、隠れる子供たちが「まあだだよ」あるいは「もういいよ」と答えます。なんとルーズな遊び方でしょう。隠れる側と探す側とが、お互いの間合いを計りながら遊んでいます。これを空間のあり方に置き換えると、日本の古くからの建築に見られる深い軒下、屋内でも屋外でもない半屋外空間の間合いと同じイメージです。

「も〜いいかい まあだだよ」という言葉の響きに、半屋外空間の様な「あいまいな間合」を感じて嬉しくなってしまいました。


やさしい言葉を使った情景豊かな解説・・・建築と同時に言葉のイメージの豊かさにも触れ、しなやかに素直な態度で物事を考える富田さんが、大好きになりました。彼女の創る建築は、まさにそんな建築です。

昨日の講演の雰囲気は、「ちいさな建築・富田玲子著」にもあふれています。