-----------  建築のエネルギー


 先日、長野県建築士会の見学会で、北川原温さんの設計した、「稲荷山養護学校」を見学しました。北川原温建築都市研究所の若い現場常駐担当スタッフが説明してくださいましたが、とても丁寧な説明で、養護学校という特殊な建物用途に、丁寧に粘り強く真摯に応対したであろう様子が伺えました。私にも覚えがありますが、多くの方と接し、様々な困難と向き合う、設計事務所スタッフの現場常駐の経験は、今後の設計活動にとても貴重な経験となることでしょう。

 話がそれますが、私が学生時代(もう20年以上前の話ですが)半年ほど、北川原さんの事務所でアルバイトをしたことがあります。当時は、渋谷の「シネマライズ」を完成させたばかりで、ニューヨークのディスコの内装や、集合住宅「メトロサ」、エドケン東京本社屋などのスタディー模型をお手伝いさせて頂きました。中でも特に印象に残っているのは、エドケン東京本社屋のプレゼンテーション模型でした。
 プレゼンテーション前日の夕方、北川原さんはパステルとマジックでA1のロールペーパーに一気にスケッチを描き上げると、そのスケッチをもとにして、夜を徹して模型作りが始まりました。スタッフと私で、1/20のボリュームを段ボールで組み上げ、それに北川原さんがパステルで色を塗りながら、3人で木の棒を何本も突き刺しました。空が白み始めた頃、高さ1.5mほどの黒く塗られた段ボールに無数の木の棒が刺さった奇妙なオブジェが、朝の柔らかな光の中にとても綺麗でした。プレゼンテーションが終わって、ニコニコとしながら帰ってきた北川原さんの顔は、とても楽しそうでした。

 建物は、最初のスケッチのイメージそのままに完成し、「メトロツアー」として、初期の北川原さん(ILCD時代)を代表する作品の一つになりました。「メトロツアー」が構想された一晩の出来事、建築を形づくるまでの物凄いエネルギッシュな展開は、今でも鮮明に覚えています。(メトロツアー写真・IGARASHI Taro Photo Archivesより・撮影:本奈穂子氏・川村翠氏)






 「稲荷山養護学校」では、狭い敷地の中に、養護学校の生徒たちの為に、対話を重ねながら形を練り上げ、信州産のカラマツと格闘しながら建物を組み上げていった様子が、建物全体からあふれ出していました。そんな建築に触れて、私にもエネルギーが沸いてきました。
「アリア」以来、北川原さんの作風が変わったのではと感じていたのですが、それはごく表面的な見方で、一晩で建築を構想するスピードとエネルギー、一方、多くの人と対話しながら色々な困難を克服するエネルギー…エネルギーの表現・注ぎ方は違っても、北川原さんの建築から発せられる、有無を言わせないエネルギーは、今も昔も全く変わりませんでした。

 建築・建築家として何が大切か…上手い?センスが良い?優しい?コンセプトの切れ味が良い?
 圧倒的なエネルギーを前にして、それらは、小さなことに思えてきました。