------------------  建築士の講習会&試験


今朝のニュースで構造計算偽装に関連して、「資格取得後の建築士に、構造の講習会と試験を課す事を検討中」と報じられていました。私が講習会と試験を受けるのは構いませんが、もし姉歯建築士が講習会と試験を受けたら、優秀な成績でパスするでしょう。姉歯建築士は、構造計算をする能力が無くて構造計算を間違えたのではなく、構造計算を偽装する状況をせまられたのです。今回の問題は、建築士の技術・技能の問題ではなく、モラルの問題でもなく、建築士が構造計算偽装をせまられるような状況に一番の問題があります。しかし、そこをえぐることなく、何故かホテルコンサルタントの捜査も打ち切られたようで、半年を経て問題が本質からズレていくように感じています。

ホテルやマンション販売・建売住宅販売の不動産事業者の立場からすると、出来るだけ出費(建設費)を押えて、高い収益を得ようとするのは必然です。建設費を限界以上に低価格に押えようとすると、手抜き工事や不正な設計も視野に入るのも成り行きです。
現在の建築行政では、その手抜きや不正の抑止力として、建築士と確認申請を盾にしていますが、今回の事件は、それが盾として機能しなかったという事実で、これを問題点とすべきです。何故、盾として機能しなかったか、理由は技術やモラルの問題ではありません。盾として機能するはずの建築士が、建物の安全よりも建設費を抑えたい人々に委嘱され、不正を犯す側と同じ利害の上にあったからです。



問題解決のためには、盾として機能するはずの建築士を、建物供給者側でなく利用者側の立場に置くことです。設計施工の体制下で、設計する建築士が建設会社のスタッフでは、建築士が不正を正す盾として機能するはずがありません。設計・監理(工事チェック)と建設を分離発注とし、設計監理が建築主から直接委嘱され、設計監理が建設会社の利害でなく、建築主の利害の為に機能する形が望ましく、少なくとも、建築主と建設会社との間に、設計監理という第三者のチェック機能を介在させるべきです。
商業施設・生産施設・ホテル・建売マンションなど高い収益が求められ、建築主自身が不正をそそのかす可能性があるような場合、建築主に雇われている建築士では盾にならないので、金融機関などが建物の経済価値を保証する制度も考えるべきです。たとえ不良マンションであっても貸付時と同じ担保価値で買い戻すなど、金融機関が建築の資産価値を保証する制度があれば、エンドユーザーが二重債権に苦しむことはなくなります。
頼りにならない確認申請審査機関よりも、金融機関が抵当を設定する際に、自らの手で担保物件を厳しく審査することが不正を防ぐ盾になるはずです。金融機関が構造計算の再計算をして融資に値するかチェックすれば、いい加減な建売マンション会社でも不正をするわけにはいきません。抵当権を設定するのは、本来そのくらい重い責任があるのではないでしょうか。建物の安全と投資額とはバランスしますから、金融機関が建物の安全と価格を考えながら融資を検討するのは本来の姿です。(こんなに安いマンションには心配で融資できません。という金融機関のアドバイスがあっても良いはずです。)



現在検討されている、建築士の罰則強化や再教育に反対ではありませんが、これはなんの解決策にもなりません。制度上無力化している建築士をつつくよりも、設計施工の分業、建築確認申請の資産担保との連動など、建築士などの専門家がきちんと機能する抜本的な建築行政制度と、建物が資産として担保される制度の改革を検討すべきではないでしょうか。

しかし、建設会社が大勢を占める建築士会や建築事務所協会が国土交通省に提言している現在では、設計施工分業の制度化を望むべくもありません。また、金融機関が自らリスクを犯して、独自の建築審査により顧客を保護するなど考えられません。まだ、この国では、大きな会社(金融機関・ゼネコン・他)が損をしないようにモノゴトが決まっているようです。