電気のこと、原子力発電のこと

仕事がら、お施主さんからは、家庭で選択すべきエネルギーに対して、アドバイスを求められます。ある程度、電気のこと、原子力発電のことに、理解が必要なので、自分なりにまとめてみました。
私なりの見解でアドバイスはしますが、家庭のエネルギーの選択は、お施主さんの判断に委ねています。しかし、私自身は、どちらかと言われれば、直火で料理をするのが好きなので、今までもオール電化をお薦めした事はありません。
したがって、私のブログに今まで書いている事も、ここに書く事も、ガス・直火びいきなのは否めませんが、全体の構図・数値のオーダーには、大きな誤りはないと思っています。


◆ネット上で、関連する基礎データを集めました。(出典不明な資料もありますが、オーダーは間違っていないでしょう)

■日本で年間に使われる電力のエネルギー源の構成(2001年統計)・・・
 石油 11.5% / 石炭 25.4% / 天然ガス 22.6% / 原子力 30.0% / 水力等 10.5%

■1kwhあたりの発電コスト(経済産業省による試算 1999年)・・・
 石油 6.5円 / 石炭 6.5円 / 天然ガス 6.4円 / 原子力 5.9円 / 水力等 13.6円 / 平均 7.5円

■1kwhあたりの電気料金(契約形態によって違います)・・・
 昼間(5:00〜23:00) 20円前後 / 夜間(23:00〜5:00) 9円前後

■日本の原子力発電量(2002年)・・・
 295.1 TWh (=295,100,000,000kwh)


◆現在の電力エネルギー事情の概略です・・・
発電事業は、電力の需要のピーク時間帯に十分な電力を供給できる発電能力が求められます。
昼間の電力需要のピーク時間帯には、火力(石油・石炭・天然ガス)・原子力・水力、全てのエネルギー源をフル稼働させて発電します。
原子力以外の発電は、稼働・停止の運転制御が出来ますから、電力需要に応じて発電量を調整します。
原子力発電は、容易に稼働・停止ができません。従って、電力需要の少ない深夜も原子力発電は稼働し続けます。
国のエネルギー政策で原子力発電の割合が増え、その結果、深夜は、供給電力が消費電力を上回る、供給過多になっています。


◆乱暴な試算ですが、もし、原子力発電を稼働させなければ・・・
全体の電力エネルギー源の3割を失います。
電力のエネルギー源の構成と、原子力発電=24時間稼働 / 火力発電・水力発電=16時間稼働と仮定して計算すると、
16時間(5:00〜23:00)は約22%の電力が不足し、8時間(深夜は)100%の電力が不足する事になります。
即ち、火力発電・水力発電の発電量はそのままで、原子力発電を止めたら・・・
5:00〜23:00は、22%の電力を節約する必要があり、深夜は、電力を使う事が出来ません。


◆現在の深夜電力事情・深夜電力割引のしくみは・・・
上述した様に、原子力発電が稼働している現在、深夜は電力供給過多になっています。
余った電力を捨てるのは勿体無いので、深夜電力価格をダンピングして需要を促しています。テレビの深夜放送や、コンビニの深夜営業が普及したのは、原子力発電の発電量が増え、深夜に大量の電力が余った事が大きな要因です。その他にも、国と電力会社は、深夜電力温水器など、深夜に電力需要を増やすシステムを推奨しました。
けれども、原子力発電を止めたとしたら・・・
深夜も電力を使いたければ、深夜も火力発電を稼働する必要があります。深夜電力は余らないのでダンピングはありません。私が電気事業者だったら、火力発電工場を夜間に稼動させる為の、深夜電力割増を設定します。


◆これからも現在水準の電力消費を維持し、原子力発電を使い続けるとしたら・・・
もはや、現在の施設やシステムそのままでの原子力発電施設の稼働は考えられません。
今まで、原子力の発電コストが安価だったのは、リスクを過少評価して、設備投資額を押さえ、リスクヘッジを怠っていたに過ぎません。
福島の事態は未だ収束していませんが、メリルリンチの試算では、10兆円の損害とも言われています。私は、損害賠償費用は原子力の発電コストと考えるのが妥当だと思います。
この額を損害賠償費用として日本全体の1年間の原子力発電量に割り返したら、1kwhあたり34円になります。(東京電力1社では不可能な賠償額なので、日本の電力会社全体の相互扶助として試算しています。)何年で割り返すのが妥当かは解りませんが、仮に10年で割り返すと、発電コストは、1kwhあたり3.4円のプラス・・・即ち、1kwhあたり9.3円。今回の福島の事故に対する損害賠償費用のコストオンだけで、各種エネルギーの発電コストの平均を上回ります。更に、将来のリスクヘッジに備える損害賠償引当金を考えるのも当然の事です。
損害補償引当金はあってはならない万一に備える費用です。それ以前に行うべき、原子力発電に絶対の安全性を求める設備投資や改修費用は想像もつきませんし、廃炉や施設解体・廃棄物処理費用までの原子力発電施設のライフサイクルコストの見直しも相当な額になる筈です。
原子力による発電コストがどれくらいのオーダーになるかの想像もつきませんが、今までの様に、安価なエネルギーと言えない事だけは確かです。


◆これからどうなるのでしょう?・・・

原子力発電を全て止めた場合は勿論、原子力発電を使いつづけるにしても、今後、発電コストが高価になる原子力発電による電力を余らす事は不合理ですから、深夜の需給バランスを念頭において、原子力の発電量は減らす事になるでしょう。従って、火力発電を増やす、あるいは、風力発電太陽光発電を増さない限り、電力が不足する事になります。
その結果、今までの様に、深夜に過剰な電力が供給過多になる事は無くなりますから、深夜電力を使い放題使う事も出来なくなるでしょう。
原子力発電の発電コストが上がり、発電コストの高い風力や太陽光のシェアが増えるので、エネルギー全体平均の発電コストは上がります。電気料金が上がるのは必至です。
深夜の余剰電力と、安価な原子力発電コストによって成立していた、深夜電力割引は成立しなくなります。


3月23日、東京電力は、オール電化の新規営業を中止しました。
中止の理由は、計画停電を実施しながらオール電化をお勧めする事は理解を得られない・・・という理由でしたが、
門外漢の私でも、限られたデータから推察できる事です・・・
原子力発電による安価な深夜電力で成立していた、オール電化の体系が崩れた事が、本当の理由でしょう。


いずれにせよ、昼間・深夜を問わず、今までの様に、贅沢に電力を使う生活を考え直さねばならない事は確かです。