-----------  建築家と家をつくる


今日は、先日竣工し見学会で色々な方に御覧頂いた、トンネルハウスの建物引渡しでした。それに合わせて、あるメデイアから「建築家と家をつくる」というテーマで、お施主さんと私に取材をしたいとの申し入れがあり、取材を受けました。
お施主さんに先立ち、私が建物の概要や設計のプロセスの取材を受けました。「施主と出合ったきっかけは?」「建物の大きさは?」「設計上の特徴は?」「設計期間は?」色々な質問に答える中、「お施主さんの家族構成は?」との問いに、「独身男性お一人です。」と答えると、記者のメモをとる筆が止まりました。記者の頭の中では、「ハウスメーカーの家が一般的な中で、こだわりを持った子育て中の家族が、建築家に家の設計を依頼して満足を得た・・・」というシナリオを描いていたようですが、「独身男性お一人です。」の答えは、全くの想定外だったようです。
「山田さんが携わった住宅で、もっと普通の住宅はありませんか?」と困った顔をした記者に質問されました。「普通とは」と考えましたが、私の依頼主は、単身者(色々な)、身体的障害を持つご両親との2世帯住宅、農家を営む方、林業に携わる方、店舗併用住宅・・・実に様々な家族構成や生活を営まれ、記者が想定する「普通=サラリーマンで夫婦+子供数人の核家族」とは大きくかけ離れています。夫婦+子供数人のご家族でも、敷地が広い・敷地が狭い・傾斜地・と立地の条件が特殊であったり、本がたくさんある、アウトドア用品の手入れの土間が必要など、記者が想定するような、「普通のお施主さんと普通の住宅」は見当たりません。

記者がお施主さんに取材を始めました。色々な質問をする中で「建築家に家の設計を依頼した理由は?」との問いに「家をつくるには、建築家に設計を依頼するのが当然だと思っていました。」との答えに、記者の筆が再び止まりました。記者は、「ハウスメーカーの家も検討したが、やはり建築家に自分達の希望に合った家を設計してもらって満足した。」という答えを想定していたのでしょうが、この答えも予想に無かった様子でした。
それに続いて「私が育った築40年の家は、大工の棟梁が考えてつくりました。現代では、大工の棟梁に変わって、建築家が家の設計を考えるのは当然でしょう。」とお施主さんが言葉を続けました。

取材を受けながら色々なことを考えました。

「普通とは…?」ハウスメーカーが考えたり、メデイアが考える普通とは、市場調査からあぶりだされる、ステレオタイプ=「定期収入があり30代の子育て世代の核家族で子供が数人」という施主の姿でしょう。あるいは、退職した団塊の世代の「終の棲家」も市場調査がイメージする施主のひとつかもしれません。しかし、社会制度や雇用形態が大きく変わり、家族の姿や、生活・収入・将来の展望…全てに、「普通=一般解」が無くなってしまいました。
そんな社会状況の中で、市場調査に基づいた最大公約数を狙ったハウスメーカーの家に当てはまらない、お施主さんが増えたのは当然で、それが「建築家と家をつくる」選択肢に結びついているのだと感じています。決して「家づくりにこだわる」方が増えたのではなく、社会構造が多様化し、ハウスメーカーの提示する一般解が一般解で無くなり、そこに我々設計者が施主と一対一に向き合って設計する必然性と必要性があります。デザインの上手い下手だけではなく、施主の事情を理解し、それに対する解決策を提示できる、柔軟性と巾の広さがこれからの建築家に求められているのではないでしょうか。
色々なメディアで、ハウスメーカーの家と建築家とつくる家が比較されますが、かたやマーケットリサーチに基づく最大公約数に対する回答を示した家と、それに当てはまらない其々の事情に応じた一対一対応の家とでは、根本的に考えを異とし比較対照ではありません。。


最後に、「これからも建築家と家をつくるかたが増えるでしょうか?」との問いに答えました。
「これから、個人個人の生活や経済事情は更に多様化するでしょう。その中で、一般解では当てはまらない事が多くなり、其々のニーズに合わせた、一対一対応が今以上に必要になるでしょう。きちんとした一対一対応が出来る建築家の需要はこれからも増えていくと思っています。」