------------------  新年度


新年度が始まり、新しい環境で新しい生活を始めた方も大勢いらっしゃることでしょう。私の事務所でも、スタッフがアシスタントから一歩進んで新しいステージを向かえています。それに伴ってスタッフに厳しい指摘をすることが増えました。指摘するのは、建築のデザインで無ければ、ディテールの納まりでもありません。お施主さんや現場監督や職人さんとのコミュニケーションのとり方について厳しく話しています。

どんな職種・職場においても同じですが、仕事には専門的な知識や経験も必要ですが、自分ひとりでは何も出来ませんからコミュニケーションが大切です。
アシスタントで図面を描いているうちは関心がないかもしれませんが、建築設計の仕事とは、お施主さんを始め、建物の建設に関わる全ての人たちと関わりを持って、つくるべき建築の方向を示すことに他なりません。図面も大切ですが、それは表現の一手段に過ぎず、相手に自分の考えている意図をはっきりと示して、問題点を洗い出し、実現に向けて障害を解決し、思い描いた建築を実現するのが我々の仕事です。
問題が、いきなり枝葉末節に陥らないように大切なことから的を絞って検討しながら、より細かな内容を明らかにしていきます。工事現場では、工事の進行状況をにらみながら、その時々に必要な打ち合わせをするのですが、いつ何を話すべきかは勘の良し悪しで、「六日のあやめ」では意味がありませんし、はるか先のことを、ひとりで熱くなって力説しても誰もついて来ません。

「勘が良い」と言いますが、相手との間合いを計りながら、肝心な時に重要な考えを示していく能力は、建築設計・監理、工事現場の仕事に欠くことのできない資質のひとつです。
コミュニケーションでの「勘」も大切ですが、図面や現場を眺めて「なんとなく変だ?」と感じる「勘」もとても大切です。正しいのか間違っているのかはその後で検証すれば良いのですが、「なんとなく変だ?」と察知することが重要で、その能力「勘」は誰に教えてもらうものでなく、自分で身につけるしかありません。
更には、設計も「勘」が大切です。お施主さんとの会話の中から、相手が何を大切にして、何を求めているのかを察するのも「勘」です。「勘」が悪くて、設計案が明後日の方向に向かっているのに気づかなければ、いくら時間を費やして案を重ねても無意味です。
「勘の良さ」とは偶然の仕業ではなく、緊張感を持った仕事のなかから、状況判断を鋭くすることにより自然に身につけていくものです。
現在の教育の中で「勘」について学ぶ機会はありませんし、「勘」を定量化して試験したり成績として評価することは不可能です。多少口下手でも絵が下手くそでも、自分の得意な表現を屈指して考えを人に伝え、建築をつくることが出来ますが、「勘」が悪かったら建築をつくることは出来ません。「勘の大切さに関しては 「風の旅人」さんがblogに書いていらっしゃいます。

これを書きながら、自分の胸に手を置いて、自分の仕事を省みています。