本棟造りの庇は何故深い? 

先日、三井所清典さんが塩尻で木造公共施設に関する講演をした際、講演後の会場との質疑の中で、聴衆に問いかけました。

「中南信州の伝統的な本棟造りの妻庇は、何故あれほどまでに深いのですか?どなたかご存知の方。」
会場の方が手を挙げて「雨風が強い気候風土の中で、建物を守る為に庇を深くしているのだと思います。」と答えました。
三井所さんは、納得したようなしないような・・・。
講演の中で、富山の井波地方の伝統的な建築スタイルの「あずまたち」の写真を見せて頂いた後でしたので・・・確かに、「あずまたち」も妻入りの建物ですが、大屋根の軒はあまり深くありません。


富山平野に住んだことがありますが、中南信州よりも、余程風は強いし雨もはるかに多い、おまけに冬は沢山の雪が降ります。
先ほどの方の説明は、建築の一般論で、本棟造りの庇の深さを説明していることにはならないのでは・・・。しかも、建築物を守る為の手段というのは建築において二義的で、一義的には建物で生活する為の理由があるはずです。

そこで、私の勝手な解釈・・・。
「あずまたち」は、瓦葺きの5寸勾配屋根の建物ですから、棟は高く、こんな高さから雪が落ちて来たらひとたまりもありません。そこで、下屋が張り出して大屋根の雪を一旦下屋で受け、下屋庇がエントランス空間を作っています。
本棟造りは、石置き屋根の建物ですから、屋根勾配は2.5寸〜3寸程度の勾配です。従って、棟の高さはそれほど高くありません。そこで、妻入りの玄関廻りの雨をしのぐ為に、妻庇を大きく出したのではないでしょうか。中南信州は雪があまり多く降りませんから、大屋根から雪が落ちる心配はさほどありませんし、大きなエントランス空間の方が魅力です。

石置き屋根の屋根勾配で棟を低く抑え、その結果深い妻庇がエントランス空間に対して有効に機能することになり、妻庇を深く出すスタイルが定着したのだと解釈してみました。
肝心なのは、庇の出は建物を守るのではありません!・・・人の生活をつくるのです!

本棟造りの建物でも下屋庇を付けた建物もありますが、下屋庇の無い建物も多く存在します。おまけに、1階の縁側が建物に入り込んでいる建物も多くみられます。

下の写真は、正に大きく張り出した妻庇の下の生活空間・・・農作業の台がありシートや脚立が無造作に散らばり、自転車や原付バイクが置かれ、おまけに軽トラックのタイヤまでも・・・。梯子を伸ばしたまま立てかけるなんて荒業は下屋庇したの空間では不可能です(笑)。
庇は建物を守る為ではありません。大きな庇の下で人々の生活が営まれます。

注)今回の写真は、「本棟造り」と「あずまだち」の説明として、色々な方のブログから拝借させて頂きました。悪意のない旨をご理解ください。